一瞬のその場限りに存在する愛のはずだった。しかしそれは、許されざる終わりのない激しい愛の始点になった。これは膨大な取材をもとに不倫の真実に迫るドキュメンタリー小説です。
琴美のこと
琴美の母は当時つきあっていた彼氏の子を妊娠した。母は結婚したかったが彼氏は結婚はしないと言った。しかし母はそれでも産む決心をし琴美を産んだ。それから再婚するまで琴美を一人で育て上げた。
片親だからといって琴美にひもじい思いをさせたくないと、母は保険販売員と夜の仕事を掛け持ちした。琴美には他の子がもらえないような額のお小遣いを渡していた。しかしいくらお金をもらっても琴美はいつもひとりぼっちだった。誰もいない家に帰る日々が続く。寝るまで母は帰ってこない寂しさは経験しないとわからないだろう。
幼稚園や小学校のころ、たまに家に帰ると知らない男性と母がいちゃついているところを琴美は見ることがあった。知らない男性が家に居ついて、琴美の目の前で情事に至ることもあったし、母がいないところでAVを見せられたこともあった。琴美はどうしたらよいのかわからずにうつむくしかなかった。
琴美が高校生になるころに母は再婚した。急に琴美にお父さんができたのだ。父は琴美のことを実の子のように接してくれたが、時におかしな行動もしていた。例えば「金運があがるからお前の陰毛をくれ」と数本抜かれたり、尻をわしづかみにして笑ったりと。いやらしい感じはしなかったが、どういう意図があったのかはわからない。もしかするとオンナとして見ていたのかもしれない。
稼ぎのよい父のおかげで母は家にいるようになった。もともと琴美への締め付けは厳しかったがそのころから琴美への締め付けはさらに厳しくなっていった。完全に毒親というやつだ。琴美を自分の所有物かのように、もっというと奴隷のように扱うのだ。面倒なことは琴美におしつけ、自分の相手をしてほしいときは友達との予定をキャンセルさせるほど。
大人になって自分の経験をひとに話し、初めて自分の親が毒親なんだと認識する人って結構多いと思う。
まともな愛情を感じずに生きてきた琴美は愛情に飢えていた。高校生になると男好きする容姿の琴美はとにかくモテた。言い寄る男性が多いので常に誰かと付き合っていたがセックスは好きではなかった。しかし拒否してフラれるのが怖いので応じた。本当の愛情というものがどういうものかわからずに、セックスだけで相手の愛情をつなぎとめることしか考えられなかった。
「刹那的に生きているな」と瀬名が感じたのはこういう経験が根っこにあるからなのかもしれない。
瀬名の我慢と琴美の変化
琴美は決して口ではそう言わないものの、どことなく自己否定的で、その場が楽しければそれでいいという雰囲気があった。そこに瀬名は「刹那的に生きている」という感じを受けた。なんか無理に頑張っているような悪ぶっているような。瀬名はそんな琴美をとても愛おしく感じたが、危ういなとも感じていた。
琴美はお酒でストレスを発散する。お酒が入ると長い。深夜になることや明け方まで飲み続けることもある。酔いが回ればそこにいる男とどうにかなることもあるだろう。瀬名と琴美は付き合うことになったが、そのような遊び方をしていた琴美が一切その飲み友達との関係を断ち切ることは難しい。だから琴美が飲みに行くたびに瀬名は心配になり、琴美を諫めた。
お互いの異性の知り合いとの付き合い方・考え方の違いはもめる原因の一つになりますね。
そのたびに喧嘩になる。琴美はただ飲んでいるだけでなぜ文句を言われるのかと。瀬名はどうして他の男と飲む必要があるんだと。そういう言い分のぶつけ合いだった。この言い分のぶつけ合いはその後も形を変えいろいろな場面で現れることになる。そもそも不倫関係なので少し可笑しいかもしれないが、不倫関係だからこそ、もうこれ以上他には目をくれず誠実に付き合いたい、付き合ってほしいという思いも出てくるのかもしれない。
色気のある女性がいれば、仲良くなってあわよくば・・・前も言ったけどほとんどの男性がそう考えているはず。違うなら男と飲んでいたほうが楽しいもんね。
琴美は近所の居酒屋の店長、飲み屋で知り合う男性客などにとにかくモテた。男好きする感じなのでそれは理解できたし、そもそも瀬名も夢中になったのだから。チヤホヤされたり、迫られたりした話しを聞かされていた瀬名は余計に心配になるだろう。
喧嘩になってもひと回り年上の瀬名が折れるので別れるまでには至らなかった。そのうち少しずつ琴美の行動も変わっていった。そういった飲み屋の知り合い男性たちとの関わりをなくしてくれた。数多くの小さなトラブルを乗り越えて、お互い強い信頼関係ができていった。
自分だけが我慢していては長続きはしない。相手が少しずつでも変わってくれると関係は長く続きますよね。
徐々に大胆な場所に
瀬名と琴美が会う場所は琴美の生活圏だ。帰宅時間に制約がある琴美が帰りやすいようにという配慮からだ。駅の近くにあるラブホテルに行くことが多かったが、飲んでカラオケで遊び時間が遅くなりホテルに行く時間がなくなるとカラオケボックスの中でしたこともあった。こんなことを言ってはあれだがヤルだけなら少しの時間さえあればどこでもできてしまう。
さらに瀬名は比較的自由に休暇をとることができるのだが、琴美の夫が日中仕事に出ているときに、琴美の家で会うこともあった。普通は近所の目もあるのでなかなか自宅でとはならないものだが、琴美の夫は近所づきあいもほとんどしないようなタイプだった。だからご近所さんからの告げ口もそれほど心配しなかったのだろう。
仕事にいったら絶対に夜まで帰ってこないと思われると不倫相手に自宅にまで侵入されることがあるかもですね。逆に不倫を疑っているならたまに急に自宅に帰ってみては・・・
瀬名と琴美の関係ではなかったが、量販店の店舗の踊り場、倉庫、夜中の介護施設のロビーや空き部屋、レストランのトイレ、褒められることではないのだが、そういうところでヤッたという話しは後を絶たない。
琴美の生活圏の知り合いにも琴美が知っているだけで何人も不倫している人を知っていると聞き、瀬名は自分もしておきながら、世の中どうなってんだと不思議に感じた。
家族ぐるみ?
琴美は瀬名ともっともっと会いたいと思うようになった。それは瀬名も同じだ。そんな年度末が迫ったあるとき、保険代理店の仕事もしている琴美の母はあと数件の保険契約をとらなくてはいけない状況にあった。琴美との雑談の中でそれを知った瀬名は「俺、貯蓄型のものなら入ってあげるよ」と言った。
琴美は知り合いが保険に入ると母に言い、瀬名は琴美の母、琴美、琴美の子どもたちと居酒屋で食事をしながら契約をすることになった。その場は大いに盛り上がった。その話しの中心は琴美の旦那のことだった。この場にいる瀬名以外の全員が琴美の旦那の悪口を言っては笑っていた。瀬名もその場を盛り上げ、楽しい時間になった。
それからたまに、琴美と母と瀬名の三人で呑むようになった。琴美の母にそういう関係だと悟られるのはまずいので、あえて瀬名は琴美の母と二人で吞むこともあった。単に呑むのがすきな変わり者のオッサンを装っていた。エッチな気持ちなどとっくの昔に置いてきた。興味もないという雰囲気を出していた。琴美の母は信じたかどうかはわからないが、琴美は瀬名と会いやすい環境になっていった。その場に琴美の子どもたちがいることも何度もあった。
何かにつけて話題にあがる琴美の旦那。瀬名も見てみたい気持ちがあったし、琴美と琴美の母も実物を一度見てほしいと思っていた。だから琴美の母の知り合いという体で一度呑もうという話しがまとまった。
不倫に慣れてしまうと、知り合いに会わないように気をつけていたのが、知り合いに不倫関係とバレないように会おうと考えが変わることがあります。とてもリスクが大きいことです。
そしてついにそれは実現…。聞いていた通り無口で酒もほとんど飲めず、人を少し小馬鹿にするような意地悪な目つきの男だった。食べることにしか興味がないこの旦那は30分ほどで帰っていった。その後、同じような流れでもう1、2度同席する機会があり、旦那の中で琴美の母の友達の瀬名という男が認識されることになった。認識されていいことなど何もないのだが。
賃貸マンション
瀬名と琴美は週1~2回のペースでホテルに行っていた。月でいえば少なくとも6~7回は行く。ホテルの1回の利用料が6千円とすれば、月4万円ほどホテル代に使っている計算だ。宿泊すればもっとかかる。
瀬名は琴美の家の最寄り駅の賃貸マンションの相場を調べた。駅近のワンルームで共益費込みで3万円くらいからあった。これなら賃貸マンションを借りたほうが安くつく。その中で築年数はかなり経っているものの分譲賃貸のため作りがしっかりしていて、小型洗濯機やエアコン付きのマンションを見つけた。早速内見し、契約した。共益費や水道光熱費、仲介手数料などを勘案すると月4万円程度のコストになるが、十分ペイできると考えた。
緊急連絡先は自宅にバレないように琴美の連絡先にした。もちろん愛人とは言えないので「妹」として登録した。普段ここで生活をするわけではないので、最低限のものをそろえた。二人分の食器、布団のセット一式。鍋やフライパンなど。食器や鍋などは琴美が家から使っていないものを持ち込んだ。布団セットやカーテンはホームセンターで安いものを購入。これで小さいながらも快適な二人の愛の巣が誕生した。
ホテル代をたくさん使っているカップルの場合は、賃貸物件を借りるのは有力な選択肢になるかもしれません。
これでお金を気にせず逢引できる環境が整った。
瀬名は終電後にタクシーで自宅に帰る必要もなくなった。家族には勤務体系が変更になり宿泊や深夜勤務もありうると説明していた。もともと朝早く深夜まで業務をしていた時期があるため、それほど大きな違和感は感じさせずに済んだようだ。
この愛の巣で琴美の手料理を食べたり、時には瀬名が料理を作ったり、時間をきにせず語り合ったりと心地のよい時間を過ごした。
恐ろしい性病
愛の巣を手に入れた瀬名と琴美は会う頻度を高めた。そんなある日、琴美が瀬名の陰茎部分に小さな赤いイボのようなものがあることに気づいた。瀬名に言うが「琴美との行為で少し擦れただけだろうと」と気にもしない様子だった。
琴美は気にしており、数日後に見たときにわずかだが大きくなっているように感じた。琴美は心配になり病院に行くように勧めた。瀬名は琴美が心配するので性病科を受診することにした。会社と自宅の通勤経路の途中にある病院を探し、行ってみた。
病院のベッドに仰向けになり、年配の男性医師にモノを見せると、その医師は意地悪そうに言った。「あーあ、これは大変だ。(女と)遊んだでしょ?」
瀬名は不安になった。「え、やばいんですか?」
医師から告げられたのは【尖圭コンジローマ】だった。切除や焼灼などの外科的治療と薬物治療があるが、その医師は発症している場所から判断して薬物治療を選んだ。2種類の軟膏を毎日数時間おきに塗らないといけない。数か月は治癒にかかると言われた。
瀬名は病院を出ると琴美に電話をした。瀬名と出会う前に複数の男性と性行為があった琴美は自分が保菌していたのだろうと思い込んでいた。琴美は「ごめん、たぶん私がうつしたんだと思う。」と言った。状況としてはその可能性は高いが確信はない。瀬名は「琴美かどうかはわからないよ。俺が他でもらったのかもしれないしね。これからは琴美も俺も他ではしないんだから、最後の性病だね」と話した。
琴美が自信満々で自分が原因だと言ったところに少し切なさを感じていたことは、瀬名は本人には伝えていない。
瀬名は夜シャワー後、朝起床時、日中は会社のトイレで薬を塗り続けた。半年くらいかかると言われていたが瀬名はしっかりと対処していたこともあり、経過は非常によかった。定期的に通院していたが、2か月ほどたった時点ではイヤミな医師に褒められるほどだった。「治りの早さはセンスもあるんだ。あなたは日々状況に合わせて塗り方をコントロールできている。すごい回復スピードだよ!」と。瀬名とその医師は不思議な信頼関係を結んでいた。
結局約3か月で完治した。その間、性行為は控えたが琴美は手で瀬名を満足させていた。だから瀬名の性的な不満はなく、さらに絆を強くしていった。瀬名が完治しても琴美が保菌しているとまた再発する恐れがあるため、琴美も検査し性病にかかっていないことを確認した。
二人はこうして性病を乗り越えていった。(つづく)
マッチングアプリで出会った相手の中には、(私を大切に思っているから)万が一にも性病をうつしたくないので、性病検査してから体の関係になろうと言ってくれた方もいました。一緒に死病検査するというのは自分を守るにも、相手を守るにいい方法の一つかもしれませんね。
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